介護離職で消える1,300万円——辞めずに乗り切る5つの技術
「辞めたら、楽になると思ってた」
訪問リハビリでお会いした50代の息子さん。 母の介護のため、大手企業を辞めた。辞めた翌月、こう言った。
「介護の時間は増えたけど、お金の不安が3倍になった。辞める前に、知っておきたかった」
介護離職は、一度すると戻れない。 この記事は、辞めずに乗り切る5つの技術を、現場で見てきた実例とともに。
結論:介護離職の損失は、想像の3倍
- 平均的な生涯賃金損失:約1,300万円(40代後半離職の場合)
- 再就職できた場合の平均年収下落:約200万円
- 厚生年金の将来受給額減少:月2〜5万円
- 健康保険・社会保険の切替費用:年40〜80万円
「正社員→介護休業→時短→復帰」のほうが、圧倒的に経済合理的。
(参考:厚労省「仕事と介護の両立支援の強化について」)
技術1:介護休業制度を「分割で」使う
介護休業は、対象家族1人につき通算93日、3回まで分割可能。 これを一気に93日使うのではなく、「始まりの10日」「特養入所までの30日」「看取りの20日」のように、山場に分けて使う。
- 休業中は介護休業給付金(雇用保険から給与の67%)
- 社会保険料は免除されないが、会社との按分相談可能
ポイント:人事に「いつ使うか未定でいいから、枠だけ確保したい」と伝える。
技術2:介護休暇(年5日)を「半日単位で」使う
介護休業(長期)とは別に、介護休暇(短期)が年5日ある(対象家族2人以上なら10日)。
- 半日単位・時間単位で取得可能(2021年改正)
- 通院付き添い、ケアマネ会議、調査立ち会いに最適
これを使わず有給を消化している家族が多い。介護休暇を先に、有給は自分のために。
技術3:ケアマネの「時間割り」を仕事と同期する
ケアマネに「平日午前はNG、夕方以降か土日希望」と伝えるだけで、多くのサービス調整が可能。
- デイサービス:朝の送り出し・夕の出迎えは時間指定できる
- 訪問介護:9〜11時、15〜17時など集中投入可能
- ショートステイ:出張や繁忙期に先に予約
仕事の予定を先に決めて、そこに介護を合わせる。 これが両立成功家族の共通点。
技術4:会社の「短時間勤務・時差出勤・在宅勤務」をフル活用
育児・介護休業法により、対象家族の介護をする労働者は:
- 短時間勤務(1日6時間等)
- 時差出勤
- フレックスタイム
- 在宅勤務
- 所定外労働の免除(残業免除)
- 深夜業の制限
を請求できる。「請求できる権利」で、会社の判断ではない。
人事に「育児・介護休業法に基づき、所定外労働の免除を申請します」と書面で出す。
技術5:介護保険外サービスを、戦略的に買う
介護保険では賄えない「ちょっとした困りごと」を、有償サービスで買う。
- 家事代行(料理・掃除・買物):1時間2,500〜4,000円
- 見守りサービス(緊急通報、日次電詵):月3,000〜8,000円
- 配食サービス:1食500〜800円
- 病院付き添い代行:1時間3,500〜5,000円
月5〜10万円のコスト。 でも、自分が仕事を続ければ月20〜50万円稼げる。引き算で見れば、買うべきサービス。
節約すべきは介護費ではなく、自分の時間。
わたしの視点:訪問リハで見た「両立成功家族」の共通点
- 介護が始まる前から、会社に事情を共有している
- ケアマネ・訪問医・訪問看護・ヘルパーの「LINEグループ」を家族が作っている
- 親の介護費用は、親の年金・貯蓄から出すと決めている(自分の家計と混ぜない)
- 週1回、1時間の「介護OFFタイム」を家族で作っている
- 辛い時は、有償サービスを買うことに迷わない
逆に、離職した家族の共通点:
- 1人で抱え込んだ
- 制度を知らなかった
- 「家族なら当然」と思っていた
すぐやるべき3つのこと
- 会社の人事に「介護休業・休暇の制度」を確認する(聞くだけは自由)
- ケアマネに「両立したい」と明確に伝える
- 家事代行1社の見積もりだけでも取る
よくある質問
Q. 介護休業給付金は誰でももらえる? A. 雇用保険の被保険者で、一定の要件を満たせば可能。正社員・パート・アルバイト問わず。
Q. 介護のために時短にしたら、給料は下がる? A. 下がりますが、厚生年金の「みなし標準報酬」制度で将来の年金額は保証されます(育児のみ対象、介護は未対応)。今後の改正に注目。
Q. 親と同居していないと制度は使えない? A. 同居・別居問わず、二親等以内の家族(祖父母・父母・配偶者・子・孫・兄弟姉妹・配偶者の父母)が対象。
まとめ
介護離職は、愛情から出る選択。でも、その愛情が1,300万円の損失と、再就職難につながる。
辞めずに乗り切る技術は、知識と、早めの準備。 そして、「自分の仕事と人生も、親と同じくらい大事」と思えるかどうか。
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参考(一次情報)
- 厚労省「仕事と介護の両立支援の強化について」
- 厚労省「育児・介護休業法のあらまし」
- 厚労省「介護休業給付」