親の介護が始まる3日間、家計に何が起きるか——訪問リハビリが見た「最初の衝撃」
その電話は、夕方5時にかかってきた
「お母さまが、台所で倒れていて——」
隣に住む叔母からの電話だった。救急車のサイレンが向こうで鳴っている。わたしは訪問リハビリで何百人もの「こういう瞬間」を見てきたのに、自分の番になると、全身の血が引くように冷たくなった。
介護は、こうして始まる。予告なし、準備なし、そして、お金の請求は最初の3日間で一気に来る。
この記事では、親の介護が始まった「最初の3日間」に、家計にどんな衝撃が走るのかを、訪問リハビリ現場で見てきたリアルと、自分自身の体験を重ねて記録しておく。
結論:最初の3日間で動くお金、ざっくり20〜40万円
読み終える時間がない方のために、先に結論から。
- 救急搬送〜入院初日:入院保証金 10〜20万円(病院により差)
- 2日目:差額ベッド代(個室の場合)1日5,000〜15,000円
- 3日目:介護用品レンタル・購入、タクシー代、食費、付き添い宿泊費で5万円前後
合計 20〜40万円が3日で動きます。このお金が、当座の預金から出ていくことを、家族はほぼ誰も知らない。
1日目:救急搬送当日に請求される「入院保証金」
救急で運ばれたその日、夜の受付で「入院保証金をお願いします」と言われる。 これは医療費の担保として先払いするもので、退院時に精算される一時金だ。
- 国立病院・大学病院:10万円前後
- 地域の急性期病院:10〜15万円
- 個室希望なら:20万円以上
多くの病院はクレジットカード払いOKだが、深夜だと窓口担当が限られ、現金のみになるケースもある。わたしは夜間、コンビニATMを2往復した。1日の引き出し上限があることを、その夜初めて知った。
現場の声(訪問リハビリから)
利用者さんの家族から一番多く聞くのが「当日、いくら持って病院に行けばいいですか」という質問。私の回答はいつも同じ。
「とりあえず現金で10万円、できれば20万円。そしてご家族のクレジットカードの限度額を、夜のうちに確認してください」
2日目:差額ベッド代という「静かな出費」
4人部屋が空いていれば問題ない。ただ、急性期病院は常に満床に近く、「空いているのは個室だけです」と案内されることが多い。
- 一般病棟の個室:日額5,000〜15,000円
- ICU・HCU入室:保険適用だが、退室後の個室誘導で差額発生
差額ベッド代は「本人・家族の同意」が原則だが、書類にサインする余裕がないと、気づけば週35,000〜10万円の追加負担に。
対策:入院時に「同意書にサインしない権利」を知っておく 厚生労働省の通知で、患者側の同意なしに差額ベッド代を請求してはならないと明記されている。 (参考:厚生労働省「療養の給付と直接関係のないサービス等の取扱いについて」)
3日目:要介護認定申請と、現金で消える小さな出費
容態が落ち着いた頃、病院のソーシャルワーカーから「要介護認定の申請をしましょう」と言われる。申請自体は無料だが、この前後で現金支出が細かく重なる。
- 介護用品(おむつ、パジャマ、タオル):1〜2万円
- タクシー代(自宅と病院の往復×家族):3,000〜8,000円×日数
- 病院近くの宿泊費(遠方家族):1泊5,000〜10,000円
- 軽食・差し入れ:1日2,000〜3,000円
気づけば、3日目の夜には通帳から10万円以上が消えている。
わたしの視点:訪問リハビリで見てきた「家計破綻の入り口」
訪問リハビリに入る家庭で、半年後に家計破綻の気配が出るのは、最初の3日間で家族が慌てて「とりあえずクレジットカードで払った」ケースが圧倒的に多い。
リボ払いに切り替わっていて、3ヶ月後に残高を見て青ざめる。そこに介護用ベッドや手すり工事の見積もりが重なる。 最初の3日間の支払い方が、その後1年の家計を決める。
すぐやるべき3つのこと
- 親の通帳・印鑑・健康保険証の場所を、健康なうちに一度確認する
倒れてから探すと、半日がつぶれる。
- 家族カードの限度額を100万円に上げておく
夜間・休日に動かすお金の「緩衝材」になる。
- 地域包括支援センターの電話番号を、スマホに登録しておく
要介護認定・ショートステイ・デイケア——すべての窓口は、ここ。
よくある質問
Q. 入院保証金は、必ず払わないといけない? A. 原則として必要ですが、支払いが困難な場合は「高額療養費制度」の限度額適用認定証を事前に取得することで、窓口負担を抑えられます。加入している健康保険組合に連絡を。
Q. 差額ベッド代は、あとで返金されますか? A. 本人・家族の同意書なしでの請求であれば、病院に申し立てて返金を求められるケースがあります。厚労省通知を根拠に、ソーシャルワーカーに相談してください。
Q. 要介護認定は、いつ申請すれば? A. 入院中でも申請できます。退院日が決まる前に申請しておくと、退院後すぐにサービスが使えます。
まとめ
介護の始まりは、誰にとっても「突然」だ。 でも、最初の3日間に何が起きるかを知っておくだけで、家計を守るか守らないかが決まる。
この記事を読んだ今日、ご自身の財布から20万円が今晩出ていくとしたら、払えるか。 払えるなら、次は親の通帳の場所を確認する番だ。
備えは、地味だけれど、一番効く。
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参考(一次情報)
- 厚生労働省「療養の給付と直接関係のないサービス等の取扱いについて」
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」