母の口座が凍結された朝、私がやった7つのこと
連絡したら、止まった
母が旅立った翌朝。 銀行に「母が亡くなりました」と電話をかけた。落ち着いた女性の声が返ってきた。
「お気落としのことと存じます。お手続きのご案内をお送りいたします。なお、本日よりお口座は凍結となります」
凍結。
その言葉の重さに気づいたのは、その日の午後、葬儀社から請求書を受け取ったときだった。 葬儀費用 120万円。父の年金振込口座は止まっている。公共料金の引き落としも、もうすぐ。
介護の仕事で「こういう話」は何度も聞いていたのに、当事者になるとまた違う。 この記事では、口座凍結のあと、家計を止めないためにわたしが実際にやった7つのことを、順番に記録しておく
結論:凍結は「連絡した瞬間」に始まる
- 銀行は死亡届の受理ではなく、家族からの連絡で凍結する
- 凍結解除には戸籍謄本一式+相続人全員の実印が必要で、早くて2〜3週間
- その間、葬儀費用・公共料金・住宅ローンは止まらない
- 2019年から使える「預貯金の仮払い制度」で、最大150万円までは先に引き出せる
1. 銀行への連絡タイミングを、意図的に遅らせる(合法)
口座凍結は、家族が銀行に連絡した時点で発生する。 死亡届が役所に出ても、銀行は自動で知らされない。
葬儀費用の振込や、当座の生活費の引き出しが必要なら、必要な金額を引き出してから連絡するという実務判断がある。
ただし:
- ATMでの大口引き出しは履歴が残る
- あとで相続人全員に「使途説明」が必要になる
- 葬儀領収書は必ず保管する
わたしは、葬儀費用の前払い50万円をATMで引き出してから、銀行に連絡した。 引き出した金額と使途は、相続人全員(兄・弟・わたし)に事前LINEで共有した。これが後の遺産分割協議を揉めさせないコツ。
2. 葬儀社に「請求を2週間待ってもらえるか」確認する
多くの葬儀社は、請求書発行から2週間〜1ヶ月の支払い猶予を持っている。口座凍結中という事情を話せば、さらに延ばしてくれるところも。
わたしが使った葬儀社は「お支払いは四十九日までで構いません」と言ってくれた。 遠慮せず、事情を話す。これが一番効く。
3. 公共料金の引き落とし口座を、先に変える
電気・ガス・水道・NHK・インターネット・携帯電話。 親名義の契約が、親の凍結口座から引き落とされていると、次回以降、滞納になる。
- 電気・ガス:Webマイページで引き落とし口座変更(即日反映)
- 水道:自治体窓口で書類提出
- NHK:電話一本で変更可
- 携帯:契約者名義変更の手続き(身分証と死亡の事実を示す書類)
わたしは喪服のまま、葬儀の翌週にこの作業だけで半日使った。後回しにすると、電気が止まる。
4. 「預貯金の仮払い制度」を使う
2019年7月から、相続人1人あたり150万円までを仮払いできる制度が始まった(民法改正)。
- 対象:凍結された預貯金
- 上限:1金融機関あたり150万円、かつ預貯金額の1/3×法定相続分
- 必要書類:戸籍謄本、本人確認書類、印鑑証明
- 審査期間:1〜2週間
「葬儀費用が立て替えられない」「生活費が尽きた」という場合、まずこの制度を検討する。 私は父の生活費として月15万円を引き出した。
(参考:法務省「遺産分割前の相続預貯金の払戻し制度」)
5. 戸籍謄本の「出生〜死亡まで」を、1度で請求する
相続手続きで最も時間を食うのが、戸籍集め。 亡くなった親の「出生から死亡までの連続した戸籍」が必要になる。
- 本籍地が複数ある場合、各役所に郵送請求
- 兄弟姉妹のぶんも必要なケースあり
- 2024年3月から「広域交付制度」で、最寄りの市区町村でまとめて取得可能に
わたしは広域交付で1日でそろった。これを知らず郵送請求すると、10日ロスする。
(参考:法務省「戸籍の広域交付制度」2024年3月開始)
6. 相続人全員で「LINEグループ」を作る
揉める相続の9割は、情報の非対称から始まる。
- 誰がいくら立て替えたか
- どの書類が揃ったか
- 何月何日に銀行窓口に行くか
これを相続人LINEグループで全部共有する。 「知らなかった」を作らないのが、相続で疲弊しないコツ。
7. 税理士に「無料相談」を1回だけする
相続税の基礎控除は 3,000万円+600万円×法定相続人数。 多くの家庭は基礎控除の範囲内だが、不動産を含めると超えるケースもある。
- 都道府県税理士会の無料相談(年数回)
- 地域の相続相談会
- 税務署の「電話相談」(0570-783-073)
30分話すだけで、「申告が必要か」「10ヶ月以内に何をするか」が見える。
わたしの視点:訪問リハビリで見てきた「凍結後の家計崩壊」
訪問先の90代の女性。夫を亡くした翌月、公共料金の口座振替が止まり、電気もガスも止まった。 認知機能が少し落ちていて、手続きができなかった。 ご本人は「死にたい」と泣いていた。
凍結は、単なる銀行の事務処理じゃない。残された家族の生活基盤を揺らす事件だ。 だから、健康なうちに、この7つを家族で共有しておくことをお勧めしたい。
すぐやるべき3つのこと
- 親の銀行口座リスト(金融機関・支店・残高目安)をメモしておく
- 葬儀費用の「とりあえずの現金」を、家族で合意しておく(50万円相当)
- 2024年開始の「戸籍広域交付」を覚えておく(最寄り役所で一括取得)
よくある質問
Q. 銀行に連絡しなければ凍結されませんか? A. 原則、連絡しなければ凍結は発動しません。ただし金融機関が新聞のお悔やみ欄や取引パターンから察知するケースもあります。
Q. 仮払い制度は何日で振り込まれますか? A. 金融機関により巾がありますが、書類完備から1〜2週間が目安です。
Q. 葬儀費用は相続財産から引けますか? A. はい、相続税の債務控除として葬儀費用(社会通念上相当な範囲)は控除対象です。
まとめ
口座凍結は、「親が亡くなった悲しみ」のあとに、追い打ちのように来る。 でも、7つの段取りを知っているだけで、家族の生活は止まらない。
この記事を保存しておくだけで、いつか役に立つ日が必ず来る。 備えることが、愛する人を守るいちばん地味で強い方法だと思う。
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参考(一次情報)
- 法務省「遺産分割前の相続預貯金の払戻し制度」
- 法務省「戸籍の広域交付制度」
- 国税庁「相続税の計算」