介護保険「1割→3割」に変わった日——気づかず損する所得区分
「先月から、3倍になってます」
訪問リハビリで10年お世話している80代のAさん。ある日、娘さんが請求書を握りしめて言った。
「これ、計算ミスですよね? 先月まで5万円だったのに、今月15万円なんですけど」
計算ミスではなかった。 介護保険の負担割合が1割から3割に変わっていたのだ。
Aさんの家族は、このルールを知らずに、年間120万円も余計に払う羽目になっていた。
この記事は、「介護保険3割負担」の境目と、それを避けるために元気なうちに取れる対策を、現場目線でまとめたもの。
結論:3割負担の境目は、合計所得220万円
- 1割負担:大多数の人
- 2割負担:合計所得160万円以上(年金収入だけなら約280万円以上)
- 3割負担:合計所得220万円以上(年金収入だけなら約340万円以上)
※65歳以上の単身の場合の目安。詳細は厚労省の基準表を参照。
負担割合は毎年8月に切り替わり、前年の所得で判定される。 つまり、退職金が入った翌年・年金を繰下受給した翌年に、いきなり3割に上がることがある。
Aさんに何が起きたか——退職金が引き金だった
Aさんは、大企業に勤めていた夫の遺族年金で暮らしていた。 長男が定年退職し、退職金2,500万円を母であるAさんの口座に一時的に預けた。
ここで何が起きたか:
- 退職金そのものは一時所得で、合計所得には加算されるケースとされないケースがある
- ただし預貯金の利子所得、配当所得の再編で、Aさんの合計所得が一時的に220万円を超えた
- 翌年8月、介護保険の負担割合判定通知で3割に変更
家族間のお金の移動が、介護費用を3倍にした。 長男は善意だったが、知らなかった。
境目になる「合計所得」とは何か
介護保険の負担割合判定で使われる「合計所得」は、所得税の総所得とは違う。
含まれるもの:
- 年金所得(公的年金等控除後)
- 給与所得
- 不動産所得、事業所得
- 譲渡所得(株、不動産売却益)
- 一時所得(退職金、生命保険の満期金の一部)
含まれないもの:
- 遺族年金、障害年金(非課税)
- 預貯金の元本
- 贈与された現金(贈与税の世界)
ポイント:株の売却益や不動産売却益が「合計所得」を一気に押し上げる。
元気なうちに取れる5つの対策
1. 毎年8月の判定通知を、家族で確認する
自治体から「介護保険負担割合証」が届く。 7月末〜8月第1週が多い。
家族が見逃すと、1年間3倍を払い続ける。郵便物の整理を家族でする日を決める。
2. 高額介護サービス費制度を必ず使う
3割負担になっても、月の上限額を超えた分は払い戻しされる。
- 一般(年収約383万円未満):月44,400円
- 現役並み所得:月44,400〜140,100円(段階あり)
これを知らずに満額払い続ける家庭が多い。 申請しないと戻ってこない(自治体によっては自動適用)。
(参考:厚労省「高額介護サービス費」)
3. 高額医療・高額介護合算制度で年間上限を使う
医療費と介護費を合算して、年間の上限を超えた分が戻る。
- 70歳以上の一般所得者:年56万円上限
- 低所得者:年31万円上限
- 現役並み:年67〜212万円上限
「医療費だけ」「介護費だけ」で限度額を見ずに、合算で考えるのが基本。
(参考:厚労省「高額医療・高額介護合算療養費制度」)
4. 株・不動産の売却タイミングを、介護判定と照らす
親が要介護になっている場合、
- 親名義の株・不動産の売却は、タイミングを1年ずらすだけで負担割合が変わる可能性
- 売却前に税理士・ケアマネに相談する
5. 「世帯分離」を検討する
同居でも住民票を分けると、世帯所得ではなく個人所得で判定される。 親と同居している子の所得が高くても、親単独の所得で見れば1割負担のまま、というケース。
ただし:
- 医療保険料、住民税、その他制度全体への影響を必ずシミュレーション
- 独断せず、自治体の保険年金課・ケアマネに相談
わたしの視点:訪問リハで見た「知らずに損した3家族」
- 家族A:退職金が入った翌年から3割、年間+100万円
- 家族B:株の売却益で1年だけ3割、翌年は1割に戻ったが知らず申請せず満額払い続け+80万円
- 家族C:世帯分離を提案したら1割のまま、年間-60万円
介護費用は、知識で3倍変わる。 節約より、ルールを知ることのほうが、効く。
すぐやるべき3つのこと
- 親の介護保険負担割合証(毎年8月)を家族で共有する
- 高額介護サービス費の申請状況を自治体に問い合わせる
- 親名義の資産売却前に、ケアマネか税理士に一言相談する
よくある質問
Q. 介護負担割合が上がった月から遡って、巾額は戻りますか? A. 負担割合の判定は年1回のため、遡及返還は原則ありません。
Q. 非課税の遺族年金は合計所得に入りますか? A. 入りません。遺族年金・障害年金は所得判定から除外されます。
Q. 世帯分離は簡単にできますか? A. 住民票の手続きで可能ですが、扶養控除や国保料など波及効果が大きいため、必ずシミュレーションを。
まとめ
介護保険の負担割合は、知っているか知らないかで、年間100万円以上変わる。
これは「お金持ちだから取られる税」ではなく、 退職金や資産の動きのタイミングで、誰にでも起きる仕組み。
8月の郵便物を見る習慣を、家族で作る。それだけで家計は守れる。
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参考(一次情報)
- 厚労省「介護保険の負担割合」
- 厚労省「高額介護サービス費」
- 厚労省「高額医療・高額介護合算療養費制度」