「認知症になったら、どうしたい?」を親と話せた家庭が、後で揉めなかった理由
「延命はしない」——その言葉を、親から直接聞けているだろうか。
認知症になったとき、本人が何を望むか。延命治療をするかどうか、施設に入りたいか、誰に介護してほしいか。これらは、なってからでは確認できない。だから、話せる今しかない。
「そのときになって考えればいい」では間に合わない
認知症は、発症してから進行するまでに時間がある。初期のうちは本人の意思疎通も可能だ。でも、多くの家族は「まだ元気だから」と話し合いを先送りにして、気づいたときには「本人に聞けない状態」になっている。
そうなると、家族が判断することになる。医師から「延命しますか?」と聞かれたとき、家族は本人の意思を知らないまま答えなければならない。そのプレッシャーと罪悪感は、計り知れない。
「本人がどうしたかったか、ちゃんと聞いておけばよかった」という後悔は、介護の現場でよく聞く言葉だ。
「延命はしない」——事前に話し合っていた家族の話
40代・関西在住のゆるりさんは、家族で介護や終末期についての話し合いを早い段階からしてきた。
「延命はしない、と決まっていたんです」
それは冷たい決断ではなく、本人の意思を家族全員が把握していた、ということだ。だから、いざそのときが来たときに、家族は「本人が望んでいたこと」を選べた。迷わずに済んだ。
事前に話しておくことで、家族の負担が減るだけでなく、本人が「自分の最後を自分で決められた」という尊厳にもつながる。
家族で話しておきたいこと、具体的に何を?
「介護の話をしたい」と思っても、何から切り出せばいいかわからない人は多い。以下の問いを参考にしてほしい。
- 認知症になったら、施設に入りたいか、自宅にいたいか
- 延命治療(胃ろう・人工呼吸器など)はどうしたいか
- 介護してほしい人・してほしくない人はいるか
- 最期はどこで迎えたいか(病院・自宅・施設)
- 葬儀や埋葬についての希望はあるか
全部を一度に話さなくていい。「もしものとき、どうしたい?」という一言から始めるだけでいい。エンディングノートを一緒に書くのも、話し合いのきっかけになる。
話せる今が、一番大切な時間だ
認知症の話を家族でするのは、縁起が悪いことではない。
むしろ、「あなたのことを大切に思っているから、ちゃんと知りたい」という行為だ。本人も、自分の意思を伝えられる機会があることで、安心できる。
話せる今が、選択肢がある今だ。認知症になってからでは、本人が選べない。家族が選ぶしかなくなる。だからこそ、今話す。
今日、親に電話してみてほしい。「最近どう?」から始まる会話の中に、「もしもの話」を少しだけ混ぜてみる。それだけで、家族の未来はずいぶん変わる。
「任意後見制度」で本人の意思を法的に守る
話し合いをしても、それは「家族の記憶」にしか残らない。より確実な方法として、任意後見制度がある。元気なうちに、自分の判断能力が低下したときに誰に何をしてもらうかを、公正証書で決めておく制度だ。
「施設への入所の判断」「医療行為への同意」「資産の管理」など、認知症になってからでは決められないことを、今のうちに本人が指定できる。費用は公証役場の手数料(2〜3万円程度)と、実際に後見が始まったときの専門家報酬がかかるが、「家族に迷惑をかけたくない」という気持ちに応える最も確実な手段の一つだ。
エンディングノートに書いておくべきこと
法的拘束力はないが、家族への「気持ちの伝言」として有効なのがエンディングノートだ。以下の項目を記録しておくと、家族の判断に迷いがなくなる。
- 認知症になったとき、施設か自宅か(どちらを希望するか)
- 延命治療をするかどうか、胃ろう・人工呼吸器への考え
- 葬儀の希望(規模・宗教・呼ぶ人)
- 財産の概要と、大事な書類の保管場所
- ペットがいる場合、世話をしてほしい人
「書いたこと」より「家族と一緒に確認したこと」のほうが意味がある。書いたら家族に見せておくのが最大のポイントだ。
今すぐやること——この週末に3つ
- 「認知症になったとき、どうしたい?」と親に聞く——正解を求めなくていい。「最近そういうニュース見てさ」という入り口でいい。
- エンディングノートを1冊買う(100円ショップにもある)。まず「名前と生年月日」だけでも書いてもらう。
- 任意後見制度について調べる——地域の法テラスや市区町村の相談窓口で無料相談ができる。
実際に家族で話し合いを進めるときは「相続準備チェックリスト完全版」が具体的な話し合いの項目を網羅している。実家の片付けと同時に進めたい方は「なくなった後に片付けるのは私たちだから、今捨てよう」も参考に。
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訪問リハビリ現場で見てきた「お金と家族」の当事者記録3本を、マガジンにまとめています。相続4,000万円の揉めごと全記録・介護保険1割でもシビアな家庭の実例・ゴールドNL 100万円修行の月別履歴——数字と感情の両面から書きました。
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✍️ この記事を書いた人
ゆるり|訪問リハビリ専門職
現場で1,000人以上のご家族と関わってきた訪問リハビリ職。27歳で母を亡くし、密葬60万円・相続登記45万円・兄弟3人で揉めた相続を経験。