「親が亡くなった。何から手をつければいいのか分からない」——悲しみに暮れる中で、容赦なく届く郵便物・電話・各種の書類。やるべきことには明確な期限があり、見落とすと余計な税金や罰則を支払うことになる。

本記事では、親が亡くなってから完了までの相続手続きを「14日以内・3ヶ月以内・10ヶ月以内」の3つの期限軸で整理する。優先順位を間違えなければ、悲しみの中でも一歩ずつ進められる。

14日以内——「届出」と「停止」を一気に

最初の2週間でやることは、行政・公共サービスへの届出だ。これを抜けると、年金が二重支給されて返納が必要になったり、健康保険証で死後に医療費を使ってしまうトラブルが起きる。

期限 手続き 提出先
7日以内 死亡届の提出 市区町村役場
14日以内 世帯主の変更(世帯主だった場合) 市区町村役場
14日以内 国民健康保険・後期高齢者医療の資格喪失届 市区町村役場
14日以内 介護保険の資格喪失届 市区町村役場
10日以内(厚生年金)/14日以内(国民年金) 年金受給停止の手続き 年金事務所

市区町村役場の窓口で「親が亡くなったので必要な手続きを全部教えてほしい」と言うと、まとめて案内してくれる。1日で全部済ませられる場合が多い。

同時にやっておくと楽なこと

  • 葬儀費用の領収書を保管する(相続税の控除対象。葬儀社からまとめてもらえる)
  • 戸籍謄本を多めに取得する(相続手続き全般で何通も必要。出生〜死亡の連続戸籍を5〜10通)
  • 「法定相続情報一覧図」の作成を法務局に申請する(戸籍の束を1枚にまとめた書類。各種手続きが大幅に楽になる)

3ヶ月以内——「相続放棄」の判断期限

相続の重要な岐路がここにある。相続放棄または限定承認は、相続を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てる必要がある。これを過ぎると「単純承認」したとみなされ、借金まで全部相続することになる。

こんな場合は相続放棄を検討

  • 親に多額の借金(住宅ローン・連帯保証など)がある
  • 親の事業を継ぎたくない(事業の負債も相続対象)
  • 所有している不動産の維持費・解体費が遺産価値を上回る
  • 連絡を取っていなかった親の相続で、財産・負債の状況が不明

「相続放棄したいか分からない」という場合は、まず「相続財産の調査期間として3ヶ月の伸長」を家庭裁判所に申し立てられる。期限ギリギリで判断する余裕がないなら、まず伸長を申請してから熟慮するのが正解だ。

遺言書の有無を必ず確認

3ヶ月以内に遺言書の有無を確認することも重要だ。自宅・貸金庫・公証役場(公正証書遺言の場合)のいずれかに保管されている可能性がある。公正証書遺言は最寄りの公証役場で全国検索できる。手数料数百円で確認できる。

2020年から始まった法務局の自筆証書遺言保管制度を利用していた場合は、法務局で確認できる。検認手続きが不要なため、相続人にとっては大きな手間削減になる。

4ヶ月以内——準確定申告

亡くなった人に確定申告の義務があった場合(自営業・不動産収入・年金収入など)、相続人が代わりに準確定申告を行う必要がある。期限は相続を知った日から4ヶ月以内。税務署に提出する。

「親は確定申告していたか分からない」という場合、税務署で過去の申告履歴を確認できる。確定申告が必要だったのに準確定申告を忘れると、加算税・延滞税が発生する。

10ヶ月以内——相続税申告と納税

相続税の申告と納税は相続発生から10ヶ月以内。基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を超える場合に申告が必要になる。

法定相続人数 基礎控除額
1人 3,600万円
2人 4,200万円
3人 4,800万円
4人 5,400万円

「うちは関係ない」と思いがちだが、実家の不動産+預貯金+生命保険の合計を計算すると、首都圏では基礎控除を超えるケースが多い。10ヶ月の期限は予想より早く来るため、3ヶ月時点で税理士に相談を始めるのが安全だ。

小規模宅地等の特例で大幅減額

親と同居していた・親の事業を継ぐ・賃貸経営をしている、といった場合、自宅の評価額が80%減になる小規模宅地等の特例が使える。これを使うかどうかで相続税額が桁違いに変わる。特例を使うには相続税申告が必須(基礎控除内でも申告が必要)。

2027年3月までの相続登記義務化

2024年から相続登記が義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料になる。2027年3月31日までに、過去の未登記分も含めてすべて登記する必要がある。詳細は相続登記、放置したら10万円の罰則——2027年3月の期限まで残り1年をご覧ください。

手続きを楽にする「3つの仕組み」

  1. 法定相続情報一覧図——戸籍の束を1枚にまとめた書類。法務局で無料発行。銀行・税務署・証券会社などすべての手続きで使える
  2. 遺産分割協議書のひな形——法務局や行政書士のサイトで無料テンプレート入手可能
  3. 相続専門の窓口を活用——日弁連・日本司法書士会連合会・税理士会で無料相談あり。最初の30分〜1時間で全体像を整理してもらえる

今すぐやること——「いつか」のための準備

本記事は「亡くなった後」のガイドだが、親が元気なうちに準備しておけることがある。これだけで、いざというとき家族の負担が大幅に減る。

  1. 親の財産・負債の概要を把握する(口座のある銀行・不動産・借金の有無)
  2. 遺言書の作成を勧める(公正証書遺言が最も確実)
  3. エンディングノートに保険・サブスク・デジタル資産の一覧を残してもらう

「亡くなってから慌てる」のと「事前に準備して落ち着いて進める」では、家族の精神的負担が天と地ほど違う。

📌 あわせて読みたい:相続準備チェックリスト完全版相続登記の義務化——2027年3月の期限母の口座が凍結された朝、私がやった7つのこと

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ゆるり
リハビリ職の長男。片道2.5時間の距離にある実家で、88歳の祖母の介護と母の相続に向き合っています。看護師だった母が一人で守り続けた家と家族を、今度は自分が守る番だと思っています。母の遺産を新NISAや高配当株で運用しながら、介護・仕事・家族の思い出を両立させるための試行錯誤を、同じ悩みを持つ方へ届けます。